ロマンチックモード

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映画「時計じかけのオレンジ」

あらすじ:
毎夜、強盗・暴力・レイプに明け暮れる不良少年団のリーダー、アレックスは仲間の裏切りにより一人警察に捕まった。14年の刑期を言い渡された彼は、刑務所で「ある治療を受ければ2週間でシャバに出られる」という噂を耳にし、ついにその『ルドヴィコ療法』を受ける。無事治療を終え、約束通り出所するが。

2月16日、ついに年始から計画していた「キューブリックラソン」の開催に至った。開催地は我が家、参加人数は1名、私のみである。なぜいきなりキューブリックでしかもマラソンなのかというと、本屋で投げ売りされていたからに他ならない。「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」「フルメタル・ジャケット」の3作品で980円。「シャイニング」「アイズ ワイド シャット」で980円。いずれもBlu-rayで元値は3,600円と2,400円である。これらすべてはスタンリー・キューブリックの代表作ではあるが、名前は知っているのになんと見たことがなかったのである。それがレンタル料金に少し上乗せすれば手に入る。それもBlu-rayで。かくして私はいきなり見たことのない映画のBlu-rayが5枚も増えたのである。

というわけで、「スタンリー・キューブリックラソン」記念すべき第1作目は超超超有名作品であるところの「時計仕掛けのオレンジ」から始めた。この作品は、1年に100本映画を見る高校時代の友人が15歳当時「今まで見た中で一番好き」と断言した映画だ。どんなところが好きなのか聞いたはずだがさすがに覚えていない。こんなに時間が経ってからようやく見てもイタリア人と結婚しイタリアで暮らす彼女には「いつの話してるのそんなことよりイタリア超暇」としか返ってこないだろう。(実際イタリア超暇は言われたことです)

暴力的で過激な描写、キューブリックの個性が光る独創的な撮影…そんな触れ込みがあちらこちらに散らばるこの作品、2019年にいろんな映画やドラマ、ゲームを経てこの作品を見ると、確かに行為は残虐ではあるものの描写として「過激」であるとは言えないな、というのが正直な感想だ。過激ではあるが、現在の基準から考えると、という話である。レイプ描写も実際にバンバン全裸になるしおっぱいくらいは触るが、それはキューブリックが映したいだけだろう。レイプに関わらず女体があちらこちらに散らばる映像になっているのであれは特別なにもすっぽんぽんにしなくてもいいところをさせているとしか思えず、完全に「趣味だな」と思って見ていた。

それとは別に、登場人物の服装や登場する部屋のインテリア、そのすべてがサイケデリックでオシャレだった。麻薬入りミルクバーは冷静に見ればなかなか悪趣味なテーブルとは思うけど、ギリギリ下品には見えない。他の部屋や女性の服装にしてもギリギリな上品さを感じさせる。それは私の眼には主人公アレックスの美貌によるもののように思えた。

主人公アレックスは極悪非道ないわゆるサイコパスである。人の心を読み、懐柔し、その上で蹂躙することに快感を覚えている。そんなアレックスの顔が、それはもう美人で仕方がない。この映画はアレックスのアップから始まるわけだが、その1カット目であまりの美しさに驚いた。凄惨な暴力を振るい、人を踏みにじり、恐怖を植え付けることに迷いがない。目を覆いたくなるような行いをする彼から目が離せないのだ。

物語としては、後半から「どこに向かっていくのか」が全く予想できずワクワクしながら見ていたわけだが、きれいな円を描いて終わったように思える。暴力は暴力を産み、過去の行いはそのまま自らに降りかかり、逃げた先に過去の自分がいる。人間の元来持つものを、無理やり替えることはできるのか。この映画にはクリスチャンも出てくるが、科学の限界と宗教の奥深さを見たような気がした。アレックスの最後のセリフは、まさに、治ったと言っていいのだろう。

後半に行くにつれこの物語の終着点が気になりすぎて、結局夢中になって見てしまった。アレックスの口角をグッと上げるあの笑い顔。きれいに澄んだ青い瞳。軽快なタップダンス。実のところ冒頭17分が結構キツかったのに、今すでにまた見たくなっている。ルドヴィコ療法をされていたのは私だったのかもしれない。エンディングまできっちり落とし込んでくる、さすがの超有名作品でした。

時計じかけのオレンジ [Blu-ray]

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