ロマンチックモード

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ドラマ「初めて恋をした日に読む話」

あらすじ:ガリ勉の末、東大受験に失敗してから仕事もプライベートもうだつの上がらない春見順子(深田恭子)は、バイト先の塾講師としても崖っぷちだった。そんな時、ピンク髪で底辺高校に通う由利匡平(横浜流星)が親と一緒に塾へ訪れる。親の態度に激おこした順子は由利匡平を東大に合格させる!と意気込み、本人も次第にやる気になっていくと同時に、順子に惹かれていく。幼馴染で東大出身、現在エリートサラリーマンの八雲雅志(永山絢斗)は20年ずっと順子に片思いし続けているし、それとなく気持ちを伝えているもののその全てをスルーされ現在に至る。匡平の高校の担任である山下一真中村倫也)は順子の高校時代の同級生で、順子に唯一告白し、振られた過去を持っていた。

3月19日、ついに毎週楽しみにしていたドラマが最終回を迎えた。「はじこい」である。結局最終回までこのドラマの正式名称を覚えられず公式サイトを確認した次第である。その点については私の記憶力の問題なので謝罪させていただく。

いわゆる四角関係で分かりやすい恋愛ファンタジーものである。そもそも深田恭子がモテないはずがないのだ。実際劇中の深キョンはめちゃくちゃ可愛かった。そこへクソポジティブ幼馴染、若い力でグイグイくる高校生、元不良同級生が深キョンめがけて大渋滞するのである。またこの3人が3人ともイケメンのくせに順子めがけて結構必死なのだから笑える。

分かりやすいキャラクターとストーリーの中に、『勉強』や『受験』に対し、大人はどのように子供に伝えることができるのか、というヒントが散りばめられていたのもこのドラマの魅力の一つだった。今回はそういった部分についても大いにぶつけてみたいと思う。

登場人物について

四角関係の4人とは別に、順子の幼馴染の美和(安達祐実)だったり由利匡平の同級生、由利に恋する女子高生のエトミカ吉川愛)、雅志の後輩にそれぞれの親や行きつけのお好み焼き屋の店主、塾の先生たち…とかなり登場人物が多いドラマだったのにも関わらず、場面の強弱が分かりやすく、名前まで覚えることが出来なくても、ちゃんと服や登場シーンで「これは匡平の友達」「これは塾の先生」としっかり見分けがつく描写だった。途中で設定モリモリのライバル講師まで現れたけれど最後までどのキャラクターもブレることなく、なんならモブだと思っていた匡平の友達がエトミカと付き合いだしたりしていた。これもいきなりではなくきちんと前の週までに振りがあったのが素晴らしいところで、ドラマ内の誰もがきちんと生きていた証拠であった。

  • 由利匡平

まずは由利匡平というか横浜流星なんだけど、己の格好良さを理解しながらそれを出し惜しみすることなく発揮されていて、それも映画ではなく地上波のテレビでドバっと放出していただいて本当にありがとうと言う気持ちでいっぱいとなった。きちんとカッコよく見えるように撮ってくれている、という意味でもある。特に大学生ver.のデコ出しスタイルはけしからん、いいぞもっとやれ、と思ったのは私だけではないだろう。

由利匡平というキャラクターも素敵だった。高校生らしく不貞腐れてみたりするけれど、さすが政治家の親を持つ子供で、育ちの良さが垣間見えた。前クールの誰かとは大違いであった。自分の年齢について、きちんと思い悩みながら順子への恋心を待ったなしで突き進む彼は、見ていて本当に切なく応援したくなる若者だった。最終回の教室のシーンのセリフ「好きなだけじゃダメなのか…?」は切なくも美しくて、素晴らしいものを見せてもらった気がしている。

  • 八雲雅志

こいつは本当にいいヤツなので幸せになってほしい。最終回でようやくちゃんと振られた雅志が流した涙を山下先生に見せてやりたい。このクソポジティブ野郎はそのクソポジティブでもって振られた次の瞬間に振った相手にこう自慢するのだ。「20年もトキメキ続けられたんだ、羨ましいだろう?」と。由利が東大に受かったのも、正直雅志の力が大きいと思っている。もちろん順子の授業あってのものだが、受験に向かうその精神はほぼ雅志から受けたのではないだろうか。そう、この雅志という男は由利が恋敵であると分かっていながら勉強法やら心構えやらを教えてしまうのである。どこまでいいヤツなんだ雅志!!!!しかしこの行動もきちんと劇中で説明されている。雅志にとって順子が一番なのだ。順子の教え子が受かって順子が喜ぶなら、それが恋敵であろうと手を貸すのが雅志なのである…幸せになってくれ雅志…。

まず中村倫也の作画のブレなさに拍手を送りたい。簀巻きにされても格好いい男、それが中村倫也である。そこにパイがあるなら触る、それが山下先生であったし、ダイナミック不法侵入(順子の部屋に玄関からではなく庭から入った)などのエンターテインメントを提供してくれた元不良少年は、その実いい先生だった。底辺高校と揶揄される高校で担任として、社会科の教師として教鞭をふるい、生徒を思い退職まで決意した。卒業式に生徒へ向けたメッセージ「お前らが俺くらいの年齢になったとき、なんとか食ってけるようになってもらえたら嬉しい」。自分は口が軽いと自嘲しながら、本当に傷つけてしまうようなことは言わない、そういう匙加減のできる大人だった。

そう、このドラマの登場人物の大人は、すごくいい大人なのだ。みんなそれぞれダメな部分は抱えつつ、匡平を始めとする子どもたちにきちんと接するのだ。

ドラマ全体に流れていたもの

塾長の生瀬さんが、要所で順子を導いていたのは言うまでもないが、そのひとつひとつが大人としての態度のお手本のようで、見ていて背筋の伸びるものであった。

  • 本来勉強というものは、楽しいことなんです

ドラマの序盤で言っていたセリフだ。そう、知らないことを知る、ということは本来楽しいはずで、勉強というのは「知らない知識を得るために行うこと」であるはずなのだ。これを感じることができるかどうかで、勉強の好き嫌いが決まってしまうのかもしれないな、と思った。

  • 見守ることしかできない、ということ

塾長を始め他科目の先生方一同、あれだけロジカルに授業を進めたり1人1人の学力に注視していたのにも関わらず、試験日や合格発表には神棚に祈ることしかしなかった。合格した人からの連絡を待って、一緒に喜びを分かち合う、という方針も、ある意味生徒とのしっかりとした線引きのようにも思えた。大人である教師ができるのは教えることまでで、それをどう使うか、発揮するかは結局生徒次第なのだ。非常に気持ちのいい方針であった。

クソポジティブ幼馴染のクソポジティブさや、肝心なところで別のところに走って行って心配させる高校生、要所を掴んで人を導く元不良教師、そんなイケメンに並ばれながらも今一つ自分の選択に自信を持てない順子の背中を押したのも塾長だった。「普通」であることがそんなに重要だろうか?時には「普通じゃない」選択が正解なこともある。

東大の教室でキスする2人を、周りがキャーッという目線で見ているのが、ドラマの中に自分がいるようで面白い状況だった。3ヵ月、深く考えることなく4人が右往左往する様を楽しく見せてもらった。またこんなドラマが見たいなと、心からそう思った次第である。

ちなみに私は雅志派である。