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劇団四季「リトルマーメイド」


劇団四季:リトルマーメイド:「パート・オブ・ユア・ワールド」2018年MV

あらすじ:
母譲りの美しい歌声を持つ人魚アリエルは人間の王子に恋をする。父親と伯母の兄弟喧嘩に巻き込まれながら、声と引きかえに足を手に入れたアリエルは王子のもとへ行くが…。

ディズニーの『リトルマーメイド』を未見だったので、非常に楽しみに観に行ったものの、正直に言うと1回目は「おもてたんとちがう」という感想しか出て来ず、いわゆるnot for meだったのだろうと筆を執ることもなかったのだけど、1回目を観に行く前にすでに購入していたチケットがあり、買ったからには観ないとね、といそいそと劇場に赴いたら全く印象が違うものになった。なんだこれ、超楽しい。以下ネタバレがあります。





ディズニー映画『リトルマーメイド』は未見なものの、ストーリーは知っているし、一定の基準というものがすでに私の中にあった。東京ディズニーシーのマーメイドラグーンと劇団四季美女と野獣』である。

マーメイドラグーンとは、その名の通り『リトルマーメイド』及び海にまつわる作品をテーマにしたアトラクションやレストラン、ショップがあり、青や緑を基調としていながらクラゲや海藻のライティングにより幻想的な空間を演出している完全屋内施設だ。私はここにあるアトラクションの一つ「マーメイドラグーンシアター」の大ファンであり、東京ディズニーシーに訪れた際は必ず、場合によっては複数回見るのを恒例にしている。海中の表現といえば私にとってこの施設が基準であり、それが見れると思っていた。
一方の劇団四季美女と野獣』。『リトルマーメイド』のアリエルは王子に恋をするわけで、王子といえば城である。アリエルが足を得て王子と一緒になろうとすれば当然城のシーンは必要になるわけで、そうなると私の中で基準になるのは『美女と野獣』で見せられたあの煌びやかな城であった。カーテンや柱のひとつひとつが重厚に見えるよう作られていて、第一部のクライマックスはそれはもう素晴らしいので是非見て頂きたい作品の一つだ。ちなみにどう素晴らしいかというとあれはもうパワー系である。歌とかストーリーとかではなく、ダンスと画力のパワーがすごい。力 is パワーな作品だ。

話を戻すと私はこの二つの基準を胸に『リトルマーメイド』を観に行った。最新のフライング技術で表現される人魚の泳ぎはそれはもう美しかったのだけど、1回目の鑑賞は落胆に次ぐ落胆となってしまったわけである。


まず、舞台が暗すぎる。いやいやいや、分かっていたはずなのだ。海中の表現は暗くなる。先に書いたマーメイドラグーンだってディズニーリゾートの中でも屈指の暗い施設だと思う。それでもなお美しかったのは天井や柱に施された海藻の絵とライティングのお陰だ。それが、ない。地上と海中、二つのシーンに共通して言えることなのだが、劇団四季『リトルマーメイド』は画面の上半分がほぼ余白になってしまっている。これはもしかしたらフルオートメーションのフライング機材の影響なのかもしれない。全くないわけではないのだけれど、あまりにも少なすぎる。それにより起こるのは青を基調にしたシンプルなライティングが当たる範囲が広くなり、結果画面全体が暗く見えるのだ。それは他のシーンにも言える。地上の晴れたシーンでもただ色が載っただけの空間があまりにも広く、画面が寂しい。

なによりセットが寂しすぎる。『美女と野獣』で見たあの煌びやかさを期待してしまったというのもあるのだけれど、それにしたってもう少し…というのの連続だった。いや、その中でも素晴らしいものはある。アリエルの部屋だ。アリエルが集めた人間の道具を置いておくあの石膏は、その果ても含めて素晴らしいものだった。ただ、そこだけだった。一番の盛り上がりであろう「アンダー・ザ・シー」でも画面の上半分ががら空きで、歌もダンスも素敵なのに圧倒的に派手さが足りない。城のシーンになるとその寂しさはさらに倍増する。全部「城の絵が描かれた板」なのだ。もちろんその手法が悪いわけではない。ただ、ただ!今回についてはチープにしか見えなかった。ことさらに残念であった。

それらの集大成が海の魔女・アースラが巣くう深海のシーンである。ただただ暗い。一応セットはあるのだけれど、居心地の悪さよりも空白の多さの方に目が行ってしまうほどであった。


以上が1回目の鑑賞で私が「おもてたんとちがう」と感じたものの全てである。どうしても見た目の物足りなさに意識が向いてしまって、それにより物語に没頭することもできず、そうこうしている内にものすごい勢いで婚礼に向かったと思ったら唐突に幕を閉じた。そんな印象であった。


で、そんな印象を抱きながら2回目の鑑賞に至ったわけだが、めちゃくちゃ楽しんでしまったのだ。


1回目の鑑賞で私がそう感じたのは、他作品と比べてしまったからにすぎない。一度『リトルマーメイド』の作画に慣れるとどうやら(失礼を承知で言うと)「こんなもんだ」と思ったらしく、舞台装置や表現にきちんと没頭し、1回目よりもストーリーやなにより歌に集中することができて、非常に楽しい時間を過ごすことができた。箇条書きで思い出していこう。


  • 足を得たアリエルの太ももが最高

めちゃくちゃ太くてムキムキである。最初は2本足で上手く歩けず転んでばかりなのだけど、「わざと転ぶ」ってめちゃくちゃ難しいし何より太ももがムキムキ。

  • フランダー(アリエルの親友)が浅利陽介にそっくり

私が見た回の俳優さんが浅利陽介にしか見えなかった。

  • カニがあっさりしてる

これは2回見ても残念なところなのであったが、もっとこう、私の中では『美女と野獣』でいうところの蝋燭と同じくらいの粘りを期待していた。しかし歌とダンスは素晴らしかった。

私の中で海の王トリトンは顔を髪とひげで覆ったキン肉マンだったので物足りなさがあった。しかし歌声は素晴らしかった。

  • 顔の長い王子が海に落ちる

2サスなら絶対死んでるんだけど、その後乳首を披露してくれるのでプラマイゼロ。(?)

  • アースラの歌が最高

海の魔女・アースラはその出自がまず可哀そうすぎるんだけど、その報復が直接的かつそれを載せた歌が長調(明るい調子)で紡がれており、しかも反復するタイプのメロディラインなので覚えてしまった。最高に怖い。怖いけど最高。

  • アースラの巨大化

あそこだけめちゃくちゃ怖い。

  • 急ピッチで準備され盛大に挙げられる婚礼

ちょっと前まで深海でワーキャーやってたのにちょっと解決したと思ったらすぐ結婚する。このスピード、嫌いじゃない!



真面目な話、海中から地上へ、地上から海中への舞台転換の表現が秀逸で、良く考えられている。視線をうまく誘導してくれるので「今はどっち?」という混乱は全くない。

どうだろう。2回目になって突然楽しみだしたのが伝わるだろうか。歌や演技などしっかりフラットに楽しめたような気がしている。劇団四季のチケットはいい席を取ろうとするとなかなか高価だが、席を選べば買えないことはない。まだまだロングランを続けそうなので機会があればまた行きたいくらいである。

最後に物語についての感想を少しだけ書いておく。

結局のところ海の王・トリトン老害にしか見えなかった。娘が心配で、という割にはその目付をカニに押し付けたり行動に一貫性がなく怒鳴ったり槍を向けたりパワハラの限りを尽くしている。そもそもアースラが海の魔女となった経緯が残酷すぎるし、その最後にトリトンがとどめを刺す権利などないような気さえした。この感想はあくまで劇団四季『リトルマーメイド』の作中で表されたものだけで書いているので、もしかしたら映画では補完されているかもしれないが、少なくともこの作品で私はそう感じたのであった。

1回目に観た時は「これをもう一度見ないといけないのか…」とすら思っていたのだけど、2回見ておいて本当に良かった。劇団四季『リトルマーメイド』、2回目は本当に楽しんでしまったので大阪と札幌近郊の方は是非アリエルのムキムキに鍛えられた太ももを観に行って欲しいと思う。