ロマンチックモード

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第6話 心が折れる

1月24日、健康診断を終えた午後3時40分、すっかり酒を飲む気でいた私が入った店は普通のパスタ屋だった。一緒に終えた同僚とのすり合わせが足りていなかった。私はもうご飯というよりアルコールを欲していた。しかし食欲旺盛な20代をないがしろにすることもできず1ミリの動揺も見せず来店した私を褒めていただきたい。

そもそもこの健康診断による疲労が予想を上回るものであった。これまでの会社と比べて福利厚生が手厚くあらゆるオプションも個人負担ゼロで行えるため何年かぶりのオプション検査を2つほど追加させていただいた。ありがたい話ではあったがそれにしても選んだ病院のシステムが合わなかった。採血、身体測定、聴力検査、とこれまでの検査はある程度一つ検査が終わると「次はあちらに行ってください」という指示があり、大なり小なり待ち時間はありつつも常に次の検査への心の準備をしながら健康診断という名のベルトコンベアに乗せられていたように思う。しかしこの病院は違った。名前を呼ばれ、聴力を測り待合に戻る。名前を呼ばれ、X線検査をしたら待合に戻る、の繰り返し。いちいち名前を呼ばれるのを聞き逃してはいけない緊張感と次は何の検査なのか分からず待ち続ける緊張感が相まって、ほとほと疲れた。駅直結のキレイなクリニックではあったがあのシステム、特に今のご時世いちいち大声で名前を呼ばれることの不快感が拭えず(一度ならまだしも検査の数だけ大声で呼ばれるわけだ)来年は別のところに行くと心に決めた。

緊張感による疲労と連れ合いがいることによる徒労で結局夜まで酒を飲む気にもなれず一晩をふいにした気分だったがまあそんな日もあるだろう。すっかりいじけて帰宅し汚れに汚れたキッチンを見て完全に心が折れた私は何をするでもなく4時間もソファの上で直立の姿勢を保つなどしていたのであった。以上第6話、心が折れる、完。