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映画「ビッグ・リボウスキ」

あらすじ:
定職につかず、趣味はボウリングとハッパのリボウスキはダルダルのお腹をダボダボのガウンに包みながら平和に暮らしている。そこへ同姓同名の富豪と勘違いした暴徒が家に押し入ってきた。暴徒にカーペットを汚されたリボウスキは、富豪のリボウスキにカーペットの代償を求めに行く。

映画「アベンジャーズ/エンドゲーム」でトニー・スタークがある人物を『リボウスキ』と呼ぶシーンがある。その元ネタがこの映画「ビッグ・リボウスキ」の主人公、ジェフリー・リボウスキである。先にエンドゲームを見てしまった私のような人は、リボウスキが映るファーストカットで笑えること必至なのであるが、映画自体も非常に面白く、すでに鑑賞済みのガッズィーラやゾンビミュージカルを差し置いてこの感想を書かずにはいられない!今一番話したいのはこの映画なのだ!という状態に陥っている。


リボウスキは基本的にダラダラしていて仕事もせず、ずっとハッパとホワイトルシアンを飲み続けている。でもそれだけだ。確かにお金はない。何故なら仕事をしていないから。でもそれをおしても言いようのない魅力がリボウスキにはある。ここではリボウスキの魅力を挙げてみよう。


・動じない。突然暴徒に乱暴されようと言葉で相手に理解を求めることができるのだ。
・たとえその矛先が少しずれていようと、自分の中に筋道を立ててそれを実行することができるのだ。
・動じない。突然蔑みの言葉を怒鳴られようと、リボウスキは一切動じないのだ。
・友達思い。弱みがあろうと興味がなかろうと、そして自分がどんな状況だろうと結んだ約束は必ず守るのだ。
・友達思い。短気な友達にうんざりすることもあるけれど、すぐに仲直りできちゃうのだ。
・友達思い。短気な友達にいつも黙らせられる友達の言葉も、リボウスキにはちゃんと聞こえているのだ。
・言われたことは素直に聞く。頼まれたことはその通りにやった方がいいと思っているのだ。
・友達思い。なんだかんだ短気な友達を頼ってしまうのだ。
・暴力はよくないのだ。
・友達思い。違うと思ったことはすぐに言うし、でもやっぱりすぐに仲直りできちゃうのだ。
・上記を「する」とは言ってないのだ。


劇中、とにかくリボウスキは大変な目に合うのだけど、それが全く大変そうに見えないのがすごい。とにかくそのスルー力たるや半端ないのである。ハッパの効果もあるのかもしれないけれど、ある意味めちゃくちゃ器の大きい男である。乱暴されても蔑まれても、彼はほとんど文句を言わずヘラヘラと流す。仕返しをしようという発想もない。(する気力がないとも言うかもしれない)そんなことより彼は仲間とボウリングに励み、ハッパを吸いながらキャンドルを炊いた風呂に浸かるほうがいいのだ。てっきりこのリボウスキが破天荒で周りが巻き込まれていくのかと思っていたのに、全くの逆なのである。


リボウスキは富豪のリボウスキの妻の誘拐事件に巻き込まれる。序盤こそリボウスキ自身だったり、短気な友達のウォルターが事態を悪化させているように見えていたのが、話が進むにつれてその事件自体が、リボウスキの外ですでに複雑すぎていたのである。次から次へと少ないながらもパンチのある人物が登場するのだけど、ついに普通そうな人が出てきたと思ったら全く聞き覚えのない名前が出てきてさすがのリボウスキもクタクタ、こちらは大笑いである。


幻覚めいたリボウスキの夢が挟まれながら、物語は平均台の上を歩くように、不安定ながらもしっかりと一本道を進んでいく。


そう、だから、事件は事件でもなんでもなくて、多少の被害はあったものの、基本的にはいろんな人が大騒ぎをしただけだった。ただ、気弱な仲間のドニーだけは本当に残念だった。本当に、の言う通り、リボウスキには笑わせてもらったし、ドニーは残念だった。


以下、ネタバレしています。


アメリカン・アニマルズ」と同時期に見れて嬉しく思う。どちらも【壁】を超えてきて、そして友情を描いた作品だ。「アメリカン・アニマルズ」は、4人の中でもスペンサーとウォーレン、2人だけにある双方向の友情が、「ビッグ・リボウスキ」にはリボウスキ、ウォルター、ドニー3人の友情が描かれた。どれも素晴らしく、時に美しくなかった。


リボウスキの魅力としていろいろと挙げてみたけれど、思い返せばリボウスキの幻覚めいた夢が挟まれるのはいつだってひどい罵倒と暴力の後だった気がする。(不確かだが)辛い現実から逃げながら、大好きなボウリングと仲間の元へ今日も行く。ドニーが倒れたら、すぐに救急車も呼ぶし、散骨もする。お金がないからちょっとみすぼらしいけれど、スピーチはベトナム戦争になってしまうけれど、海に巻こうとしたのに風にあおられて全部顔に掛かってしまったけれど、いや、ちゃんと文句は言う。でもリボウスキは引っ張らない。そう、すでに起きたことをくよくよと悔やんだり悩んだりしても仕方ないだろう。怒りはその場で吐き出して、また生活に戻る。ドニーはいなくなってしまったけれど、ウォルターと2人、またボウリングをし、ハッパを吸い、風呂に入る。現実からの逃げ方はマネできるものではないが、リボウスキの生き方には様々なヒントが隠されている。


この映画の語り部が明かされる最後のシーンは本当に良かった。リボウスキの生活は最高だったし、心から楽しませてもらった。最後のこれがあって、それまでの物語が一層魅力を増す。
時代や役柄の背景が辛辣なのに、しっかりとキャラクターを愛させ物語で笑わせる、さすがのカルト映画だった。そしてこの映画に出会わせてくれた「アベンジャーズ/エンドゲーム」は、やっぱり最高の映画だったと確信するのだった。