ロマンチックモード

日常と映画と本と音楽について

第22話 スポーツマンシップ

9月9日、気分を一新して仕事に取り組む。


8月末、弊社は海外からの転職を受け入れた。これまで関係会社の海外支局に籍を置いていた彼が、一念発起し我が社の一員となるべく日本語もおぼつかないまま来日してくれたのだ。おはようございます。ありがとうございます。おつかれさまでした。今のところ彼の語彙はこの3つだけど、正確に行動で示してくれているのでしっかりとコミュニケーションが取れていると思う。


私の仕事の中には総務も含まれているので、人の出入りがあると仕事が沸き出てくる。今回の彼の入社も、いわゆる外国人ではあるものの作業としては普通の日本人のそれと変わらない。初来日であるから、まずはしっかりと役所で住民になる手続きを経てもらう。それさえしてもらえればこちらは特別気をもむ必要はない…


なんて思っていたのだけど、結局のところ私の手元に彼にまつわる作業は回ってこなかった。総務関係の手続きはほぼやってこなかった上司が「外国人だから私がやる」と張り切りだしたのである。私の上司は典型的な人に仕事を振ることができないタイプなので、このスイッチが入ったらこちらの経験則で助言しても無駄である。無駄であると分かっていながら、つい手を出してしまったのが運の尽きだった。


一度でもやったことのある人なら分かると思うのだけど、雇用関係の手続きというのは書類がモノを言う世界だ。管轄のハローワークへ赴き(今では電子受付もできるが…)手続きをするため作成した書類と、それを証明する書類を見せ、完了する。ハローワークというのは大体行きにくいところに建っているので、書類が足りないとか、捺印漏れがあるとか、できれば避けたい。捺印チェック及び多めの資料を持って行くのが私の中での定説である。


上司にとって今回のハローワーク来訪は、私が入社して以降2度目となる。前回は私が渡した書類をまるっと忘れ、ハローワークから電話を掛けてきた。その記憶もあって、今回は「これ一緒に挟んでおいてください」という一言も付けて書類を渡してみたところ、今回もやはり忘れてくれていたようで、ハローワークから電話を掛けてきてくれた。


その手続きを取る上で必ず必要な書類であるということが分かっていれば絶対に忘れない書類を持って行かないので、正直ズブの素人と思わざるを得ないが、忘れたこと自体は仕方がない。そう思ってその電話に応対していたのだけど、求められたのが私の想定よりシンプルな書類の数だったので、念のため「〇〇は必要ないですか?」と聞いてみた。すると、「俺が確認したんだからこれでいい、早くしろ」と言う。


情けないことなのだけど、この一言が引き金になったらしく、私はこのやり取りの後たっぷり1週間生気を失ってしまった。もちろんその場で「あなたの言うことは信用ならないので、このような言い方で目の前にいる人間に確認してください」と質問内容を言わせることはしたけれど、それは必要なことをしただけであって、ストレスの軽減とは全く関係がなかった。


たっぷり1週間、生気を失うとどうなるのか。私が生気を失っていたのは9月2日~9月6日なのだけど、月初に行うべき処理が山のようにある期間であり、どうなったかというと、やるにはやったが、ポツリ、ポツリとギリギリのタイミングで仕上がっていったのだった。困るのは上司である。10日までに親会社に月次報告を作らねばならないのが、その元データを作る人間の生気が失われているせいで作れないのである。


ここ最近、ただでさえ生気のない生活を送っているところに、会社ではこのような爆弾を、私生活でもとある爆弾を投下され、どこかのネジが飛んだのだろうか。去る日曜日、唐突に作り置きおかずの作成を再開し、本日会社では目の前のことにのみ集中し、仕事を終わらせることとなった。


周囲の反応や評価に惑わされず、自分のすべきことにのみ集中する、というのは、スポーツマンシップのそれに近いかもしれない。と、カッコいい言葉でこの謎の現象を説明しておきたい気分になったのだった。